そろそろ「やる気」を経験的に議論するのはやめようか。(2)

「期待×価値」理論


実は、動機づけの原理は古くから、「期待×価値」理論として提唱されています。

「価値」とは、「当人が当該行為をどれだけ重要視しているか」ということで、今までずっと見てきた内発的動機や外発的動機の強さを示しています。

一方「期待」とは、「当人がどれだけ成功すると思っているか」ということで、特に「自己効力」という概念が重要となります。

例えば、みなさんは今、タイムマシンをつくりたいと本気で思えるでしょうか?
タイムマシンの「価値」はおそらく誰にとっても高いでしょう。
しかし、反面「期待」は全員ほぼ0でしょう。(期待を込めて「ほぼ」と言っておきます)
よって、「やる気」=「期待×価値」はほぼ0になります。

かくして、タイムマシンをつくろうとは誰も思わず、私が高校生に戻って、共学に入りなおすことは実現されなくなるわけです。

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ここで重要なのは、「価値」かける「期待」ということです!
つまり、いくら「価値」が高くても、「期待」が低いと、人間は「やる気」を起こせないということです!!(逆もまた然りです!)

言い換えると、「やれないことはやろうと思わない」のです。
しかし、逆を言えば、「成功を積み重ね自信が出るほど、意欲は高まる」ということも言えます。
これは特に「意欲の持続」に関係がありそうですね。
このように、動機づけとは「価値」と「期待」の両輪によって機能するのです。

それを踏まえて、「期待」について見ていきましょう。

「期待」の形成について考えると、
「今まで出来てたから、次も出来るだろう」
「私はクロールが出来ないから、きっとバタフライも出来ないだろうなあ」
といったように、過去の経験に影響されていることがわかります。

つまり、「予想(としての期待)」があり、それを踏まえて行った行動の結果を解釈(この解釈の部分は次回詳しく扱います。)して、「信念(としての期待)」が形成され、それが次の「予想(としての期待)」になっていく、という循環があります。

そして、「期待」は以下の二つの概念に分類できます。

結果期待・・・・ある行動をすれば、特定の成果がでるだろうという主観的予測

効力期待・・・・特定の成果をだすための一連の行動を効果的にやり通す能力が自分にあるという主観的判断

結果期待は、「自分には結果をコントロールすることが可能だ」という信念を意味します。(比較的「特性レベル(前回記事参照)」に近い概念です。)
マイナス方向の結果期待の興味深い現象として、「学習性無力感」があります。

イヌを2群に分けてランダムに電気ショックを与えるのですが、一方のグループはイヌを身動きできないように固定する「逃避不可能群」、もう一方は鼻先のボタンを押すと電気ショックを止めることができる「逃避可能群」とし、施行を何度か行います。

そして次に、柵を境に二つの部屋に分けられている実験環境にこれらのイヌをおき、再び電気ショックを与えるのですが、今度は両群とも何の固定もせず、逃げられるようにします。
そして、ショックの前にライトが点くという信号を与えます。
すなわち、その信号に反応して柵を飛び越えれば電気ショックを回避できるわけです。

実験の結果見出されたのは、「逃避不可能群」のイヌたちが、固定されず、たとえ信号が与えられたとしても逃げることをあきらめ、電気ショックにじっと耐えている姿でした。

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このように、「どうせやっても無駄だ」という信念が学習されてしまい、意欲が喪失するという現象が「学習性無力感」です。

みなさんにも、もしかしたら「いくらやっても成果が出ず、やる気をなくしてしまった」というような経験があるかもしれません。
また、うつ病といった精神病の要因の一つとしても考えられています。

次に、効力期待について説明します。
効力期待は「自己効力」とも言い、「ある(具体的な)行動ができる自信」を意味します。
そして、自己効力は以下の4つの情報源に基づいて変化します。
(下3つは、相対的に「状態レベル(前回記事参照)」の自己効力に影響度が高い情報源です。)

行為的情報・・・・過去の自分の成功体験や失敗体験

代理的情報・・・・他者による課題の遂行を観察することで「自分にもできそうだ/無理だ」などと感じる

言語的説得の情報・・・・他者からの言葉による説得や自己暗示

情動的喚起の情報・・・・緊張や不安といった身体的・生理的反応

また、行為的情報が最も強力な情報源と言われています。

巷で見られる、「生き方」の啓発本などは、言語的説得の情報を与えることで、自己効力を上げるといった側面をもつことが分かりますね。
また、優秀なリーダーの演説でチーム全体の士気が上がる現象も、この観点から説明できそうです。

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さて、以上「期待」について説明を加えてきました。
最後に、第1回、第2回の内容をシンプルな「方程式」の形で提出し、まとめたいと思います。とりあえずの所、これだけ覚えて頂ければ十分です!

「やる気」(「楽しさ」+「やる価値」)×「自信」-「コスト感」

※コスト感については説明していませんが、お察しの通り、「めんどくささ」や「費用」など精神的・物理的コストです。

ただし、今まで説明してきたのは、あくまで「ある時点における動機づけ」です。
これが成功や失敗を重ねる中で、ダイナミックに変動していきます。

次回は、そのダイナミックな過程を「原因帰属理論」という概念をご紹介しながら説明し、動機づけの重要な命題である、「良い目標とは何か?」「スパルタ教育vs手取り足取り教育」について考察を加えていきたいと思います。

では、次回乞うご期待!

※画像引用元

http://travel.dreampresent.com/category/%E8%8B%B1%E8%AA%9E%E3%81%AE%E
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http://nmjyouhou.com/%E4%BA%BA%E9%96%93%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81
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A8%EF%BC%81.html

http://kasousekaiseishinsekai.hatenablog.jp/entry/2015/08/17/%E3%82%BF%E3%82
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2%8B%E3%81%AA%E3%82%89%E3%80%81%E3%81%84%E3%81%A4

http://lectorjp.blog84.fc2.com/blog-entry-1614.html

http://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2028577

※参考文献

・鹿毛雅治(2015)『学習意欲の理論 −動機づけの教育心理学』金子書房.

投稿者プロフィール

C.ロナ
C.ロナ
【専攻】教育・教育工学
【所属】東京大学大学院学際情報学府修士1年

・「記憶」や「理解」など「学習」に関わる脳内メカニズム
・「学習理論」や「教授方法」
・教育の歴史
・最近の学校教育の動向、教育格差
・EdTech
etc.

脳科学や教育心理学、社会学などの知見を活用して、教育に関わることを全般的にポストしていこうと思います!

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