ノーベル賞2016発表直前最中特別企画、ノーベル賞を独自の調査と勘でズバリ当ててしまおうというこの企画も、早くも第5弾となりました!
(他の分野の予想をまだチェックしてないよ!という人はこちらをクリック!)
さて、2012年に山中伸弥教授、そして昨年に大村智名誉教授が受賞したことからも記憶に新しいノーベル医学生理学賞ですが、
記事の執筆をモタモタしてる間に医学、生理学賞が発表され、
なんと東工大の大隈良展教授が見事受賞!おめでとうございます!!
(wikiより)
さて、オートファジーの研究の解説は日本のメディアに任せるとして…
ここでは一年後の2017年10月発表予定のノーベル医学・生理学賞を完全予想します!!!
(決して書き貯めた記事の放出ではありません。決して。)
恥ずかしながら大隈教授の受賞を全く予想していなかったshevaによる予想では、
ズバリ近年のbuzz word, “CRISPR/Cas9システムによる遺伝子編集技術の開発”が受賞対象となるのではないかと考えています。ちなみに日本語では「クリスパーキャスないん」と読みます。かわいい。
生物学を専門にしていない人でも、ここ数年科学誌などであまりに大々的に、頻繁に取り上げられてるので、聞いたことがある!という人も多いかもしれませんね。知らない人も安心してください、3分でわかる解説を下に用意しました!
気になる受賞者としてはこの3人の同時受賞になると予想!
左からハーバード大学のFeng Chang教授、カリフォルニア大学バークレー校のJennifer Doudna教授、マックスプランク研究所のEmmanuelle Charpentier教授です!
A T G C で書かれた本
彼らの研究に踏み込む前に、ちょっと広い目で生物の遺伝子というものについて我々がどんなことを知っているのか見つめ直してみましょう。
目の前に分厚い本がたくさん積まれているのを想像してみてください。ちょうど辞書のようにずっしりと分厚い本です。その本には文字がびっしりと書かれています。よく読むと、それは A, T, G, Cのたった4つの文字で織りなされたストーリーです。
(from http://jonathanmchaffie.com/2015/10/)
その本のタイトルは「人間のゲノム」です。そう、我々の体は A, T, G, Cという4種類のDNAが集まってできた遺伝情報をもとに構成されているのです。そこには、あなたが特定の遺伝病にかかりやすいとか、体型、体質、さらにはお酒が強いとか、耳垢が湿っぽいとかいうことまで事細かに記されています。
2003年に完了したヒトゲノム計画には国際的なチームが30億ドルの予算を組んで取り組み、たった一人のゲノムを解析しました。そこから10年とちょっと、今は次世代シーケンサーなどの普及もあって、たった100〜200ドルで簡単なゲノム検査ができるまでになりました。
例えば、23&meというアメリカの会社では、$99(日本円で1万円くらい)であなたの祖先が一体どこからやってきたのか(例えば50% は東アジア人の血、30%はアフリカ人の血などというのが遺伝情報をもとにわかる)、そして$199で遺伝子から推測される病気への関連性や、顔の形や味の好みまで解析してくれるというのです!
生物の運命を決める上で重要な遺伝情報が簡単に手に入ることがわかり、その情報の蓄積で人間にとって重要な病気などの形質と遺伝子との関係もどんどん明らかになってきました。
ここで質問です。
この遺伝情報を、我々の思うように「編集」できたらどうでしょうか?
つまり、Wordで書いていたレポートの誤字を見つけて書き直すように — 遺伝病を発現してしまう遺伝子を消したり、正しく書き直したりできるとしたら?
(http://news.mit.edu/2016/using-light-control-genome-editing-0825)
素晴らしい? あるいはゾッとした、と思った人もいるかもしれません。
そう、まさにこの「遺伝子の編集」を可能にする技術がCRISPR/Cas9を用いた技術なのです。
5分でわかるCRISPR/Cas9
(Jennifer Doudna教授の研究web siteより. 科学誌最高峰と言われるNature誌の表紙を飾っています)
さて、CRISPR/Cas9システムを用いて我々は、一体どのように遺伝子を編集できるでしょうか?簡単に説明してみましょう。
CRISPR/Cas9システムを一言で表現するなら、「特定のDNAを感知し切断するハサミ」です。次の図を見てみてください。
(http://www.aati-us.com/product/fragment-analyzer/CRISPR)
青い二重らせんが僕たちが”編集したいDNA”です。オレンジ色の大豆のような部分がCRISPR/Cas9システムです。
細かい文字は無視して、オレンジのボヨボヨの中にいる緑のくしのような部分に注目してください。このくしのような部分は特定のDNAとマッチするようにできており、ATGCで記述された膨大なDNAの羅列の中から、まさにピタリとマッチする部分を探し出します。この部分はその働きからguide RNAと呼ばれています。
そしてマッチが完全に終わると、今度はそれにくっついてやってきたCas9という酵素がDNAをちょん切ります(!)。
ちょん切られたDNAはそのままでいるわけにはいかないのでなんとかもとに戻ろうとします。この時、しばしば修正エラーが起きたり(InDelと呼ばれる。図左下)、周りに落ちているDNAを使って補充したりします。
後者の場合、予め壊す部分を知っておけば、その修復に使われるであろう遺伝子を一緒にその細胞内にえいやと注入しておけば(Donor DNAと呼ばれる)、我々がここに入れたい!と思うような遺伝子をそこに挿入することができます(図右下)!
guide RNAは自在に設計できるので、編集したい箇所のDNA配列すらわかってしまえば、ある遺伝子にエラーを挿入してその遺伝子の機能をなくしてしまったり、都合のいい遺伝子を特定の部分に挿入したり、ということがまさに自由自在なのです!!
CRISPR/Cas9の功罪
たった5年前ほどから一気に白熱し、Feng Chang教授、そしてJennifer Doudna教授とEmmanuelle Charpentier教授のチームが独立に発明したとされるこのCRISPR/Cas9を用いた技術は、今や世界の生物研究者で知らないものはいません。
しかし、ワトソンとクリックのDNAの発見の裏にロザリンド・フランクリンの功績があったように、とてつもない発見にはスキャンダルがつきものです。
先ほど”Feng Chang教授、そしてJennifer Doudna教授とEmmanuelle Charpentier教授のチームが独立に発明したとされる”と言いましたが、特許をJennifer Doudna教授とEmmanuelle Charpentier教授が先に出したにもかかわらず、Feng Chang教授がファストトラックと呼ばれる申請方法により先に特許をとってしまったのです!
当然ながらその後Jennifer Doudna教授とEmmanuelle Charpentier教授は異議申し立てをしたわけですが、Feng Chang教授も引くわけはなく、泥沼化しています。
特許を逃したものの、Jennifer Doudna教授とEmmanuelle Charpentier教授は2014年にはハワードヒューズ医学研究所のBreakthrough Prizeを受賞、賞金300万ドル(!!!!)を獲得しています。
兎にも角にも生物学の景色を塗り替えたCRISPR/Cas9システム、ノーベル賞はほぼ確実と言っていいわけですから、仲良く和解する場として3人の共同受賞を望む記事でした。
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