[蚊を絶滅させろ] Gene Driveと人類のモラル


絶滅の是非


凶悪なウイルスを媒介する蚊。人間にとって大きな脅威である事は間違いありません。そして、私たちはその存在を永遠に、効率的に消し去る手段を持っています。

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(Credit: http://ruparupi.deviantart.com/art/ASEAN-Dengue-Fever-Day-2011-Poster-Competition-275194114)

しかし、技術的には数年前から可能になったこのGene Driveによる一掃作戦も、未だに大規模に実践には至っていません。それには幾つかの理由があります。

まず、蚊がいなくなることで、保たれていた生態系のバランスが崩れることが心配されています。「蚊とか存在価値ないでしょう」と思う人も多いかもしれません。しかし、蚊の幼虫はヤゴや小さな魚の餌ですし、成虫の蚊は他の昆虫や鳥などの栄養源です。また、意外かもしれませんが蚊の主食は花の蜜です。血を吸うのは繁殖期のメスが子供を産む栄養を蓄えるためで、オスは血を吸いません。蚊が花から花へと移動して蜜を吸うときに、ちょうどミツバチのように、受粉を手助けしていると言われており、もし蚊が絶滅するとなるとひょっとすると蚊にその受粉を依存していた多くの植物も共倒れになってしまうかもしれません。そもそも、ある生物種が絶滅したときにそれが周囲に与えてしまう影響というのはやって見るまで分からないわけで、「蚊の掃討作戦は短期間には人類の利益となるかもしれないが、長期的に見ての効果は予測しかねる」という生態学者もいます。

食物網

生態系の食物”網”は複雑で通常は目に見えない。一つの種が生態系維持に貢献する重要性は計り知れない.

(Credit: http://www.eku.cc/xzy/sctx/127534.htm)

さらに、Gene Driveによって次の世代へと運ばれる遺伝子がそのまま長期的に変化なく受け継がれていくという保証は、実はどこにもありません。実際に研究室で行われる遺伝というのはそこまで長期に行われるものではないため、Gene Drive遺伝子を持った蚊を話して五年後、十年後といった時間スケールで運ばれた遺伝子にどう変異が起きるかはもはやわからないのです。「人間にとって都合のいい変異」が無効化されるような突然変異が起きる可能性は十分にありえますし、さらに恐ろしいことに「マラリアをより感染しやすくする遺伝子」がひょんなことからGene Driveのシステムに巻き込まれ、一瞬のうちにマラリア大流行につながる、という半分SFのような話も、「想定外」とは言えないのです。

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(Credit: Scientific American)

我々はこの数十年、飛躍的に発展する遺伝学で武装し、あらゆる遺伝病と戦い、あるいは生命の謎を解き明かしてきました。そして今、人間以外の動物の遺伝子を自由に組み替えられ、ひいては絶滅に追いやる方法を手にしました。

しかし、相手は自然なわけです。すべてがうまくいくどころか、大きなしっぺ返しを受ける可能性もあります。

理学と技術を極めた後は、それをどう使うか。ここからは、感染をコントロールする公衆衛生学の知見や、どんな規定の元このシステムを使うか考える政策学、そして生物を本当に根絶やしにしていいのかという生命倫理の領域かもしれませんね。

 

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sheva

 

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参考記事:

MITによるレビュー。 https://www.technologyreview.com/s/601213/the-extinction-invention/

Natureによる、「もし蚊がいなくなったら」 http://www.nature.com/news/2010/100721/full/466432a.html

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