なぜ、深いほど津波は速い?
津波の速度は√gh。流体力学を用いた方程式を(巨人の肩の上に乗って)考えるとわりと難なく導くことができるわけですが、これを直観的理解したい。そこで、津波の伝わるメカニズムを考えていきましょう。
第三回でお話しした通り、津波は、①盛り上がった水の塊が下向きに落ち込み、②海水面下の水を水平方向に押し出して、③押し出された水が上方向に逃げ、④もとあった隆起が水平方向に広がっていきます。このように考えると、津波の伝わる速度は隆起した水の塊が左右に移動する速さに相当します。
つまり、隆起した水の塊が海水面まで落ち、同じ量の水を水平方向に押し出すのにかかる時間が短いほど速く伝わるというわけですね。
ここで、深い海と浅い海で、同じ量の水が隆起した状態を考えてみましょう。
隆起した水が落ちてくると、水中の水は一斉に水平方向に逃げようとしますね。下には海底面があるので、押し潰されそうになる海水面の水が逃げるには、水平方向の水を押し出して逃げるしかないわけです。
このとき、深い海と浅い海の違いはなんでしょうか?…簡単に言うと、こうです。
「深いと、逃げ道がある。浅いと、逃げ道がない。」
深い海では、水平方向には大量の水が存在します。なので、海が深ければ水平方向にある水を押し出し、水面下からすぐに逃げることができる。こうして、すぐに隆起が消えてしまいます。
しかし浅い海では、水平方向には水が少ない。すると、海水面下の水が、水平方向に一斉に逃げようとしても水平方向はギュウギュウ詰め状態で、なかなか水が逃げることができず、隆起がすぐには無くならないのです。
こうして津波は、「深いほど速い、浅いほど遅い」という特徴を持ちます
そしてこの特徴によって、津波は海岸で”急成長”するのです。
海は浅く、津波はデカく
さて、海岸にやってくる津波の話に戻りましょう。
「津波は浅いほど遅くなる」という特徴が、津波の大きさにどのように影響するのでしょうか?
海は当然、海岸に近づくにつれて浅くなっています。ということは、津波は海岸に近づくにつれて、波の前方が浅い海を進むようになり、速度が急激に低下していきます。一方で、津波の後方を見てみると、深い海を速い速度を保って進んでいます。すると、津波の前後で進む速さにギャップができます。つまり、前方の波が後方の波に追いかけられるようにしてどんどん近づいていくのです。
そして、波が合わさる時は重ね合わせでその大きさを考えることができるので、津波はどんどんと短い距離に集中し、大きくなっていくことがわかります。こうして、津波は海岸に近づくと”急成長”していくのです。
海岸に向かって進んで行く津波を、数値計算によってシミュレーションしたものです。沖合で発生した津波は、水深が浅くなるにつれて速度が遅くなります。すると津波の形は細く、そして高くなっていることがわかりますね。このような津波の特徴を「浅水変形」と言います。浅水変形によって、始めは小さかった波が少しずつ大きくなり、海岸へと近づいてくるというわけです。
実際には、海岸に近づくにつれて海底との摩擦によって海底付近の水がゆっくりと進むため、どんどん波は前のめりな形になり、海岸に到達するまでには波が崩れる「砕波」という現象を起こします。サーファーが『ビッグウェーブだ!』とざわざわしそうなコレです。
このような段階の津波を再現することは先ほどの近似を用いたシミュレーションでは不可能で、筆者もまだまだ勉強途上です。調べてみると、水粒子を一つ一つおいかけて数値計算することで見事に波の形を再現している研究もあるようです(京大工学研究科の後藤仁志研究室HP)ので、勉強していきたいなと思います。
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