機械と格闘する東大生の日常

一般的な話だけでも詰まらないので、自分の話も少し。


実験!


まずは一つご紹介しましょう!下の写真は「真空チャンバー」という実験器具です。

宇宙のモノは,宇宙の極めて低い気圧で使う事を考えて作られます。この小さな箱の中だけで、その空気の薄い環境を模擬して実験を行います。自分の体よりもずっと大きな実験設備で宇宙用のエンジンを動かしています。衛星1個丸ごと入るようなかなり大きいチャンバーも世の中には存在します。大きくて性能の良いチャンバーほど、周りのポンプなどが増えて設備が大きくなっていきます。

spacechamber_JPL

写真はNASAのチャンバー.自分が使っているものは一回り小さめ

 

強敵・スペースチャンバー

こいつがかなり曲者でして、チャンバーという「大きめのドラム缶」の中を宇宙に近づけるためには、空気をポンプで抜くという作業があります。

布団の圧縮袋のスケール大きい版ともいえますが、求められる空気の薄さが桁違いです。僕の場合は、大体3-4時間実験を始める前に必要です。実験後は装置のダメージを抑えるためにこれもまた3時間くらい必要。実験自体の時間などもろもろを合わせれば半日がかり。ミスをしようものなら、せっかく3時間かけて真空にしたのに2時間かけて地上の圧力に戻して最初からやり直しです。

何度か大きめのチャンバーで実験したことがありますが、大きいものだと真空にする時間も7時間ほどかかります。真空を準備している間に寝たりするので、昼夜が逆転します。1-2週間くらいなら、変則的生活も楽しく過ごせるのですが。

要領よくやったつもりが、設定が良くなくて実験せずに今日は終わり、みたいなこともしばしばです。

space science chamber

スペースチャンバー. Copyright:JAXA *1

(余談ですが、これはJAXAにあるスペースチャンバー。大きさは直径2.5 m、長さ5 mで結構大きいです。日本中の大学や研究機関が使えることになっていて、僕も何度かここで実験をしました!内部の写真はないですが、実験に使われる台座などがあったりします。「良い真空」を作るためには、中をきれいに掃除することにかなり気を使います。

ここで論文集に掲載されたり、表彰されるような実験が行われています。)

 

宇宙のモノは打ち上げてしまったが最後、二度とメンテナンスできない。そのことを思えば、普段の実験でも一発で成功させるくらいの気構えが必要といえますが…

宇宙空間という極限の環境を再現するには技術と時間が必要だと身をもって知ることができます。

実際のチャンバーの周りでは多くの機械が力強く動いています。また、真空を地上の大気まで戻すとき内部に空気を送り込みますが、これまたパワフルです。

僕は主に宇宙で使うエンジンを実際に動かして研究しています。他にもシミュレーションのため1日パソコンとにらめっこする人、業者に発注するための図面を描く人、などいろいろなタスクがあります.

実験するには、当然ながらモノが必要です。実験するモノ、それを動かすモノ、そのデータを取るモノ… たくさんのモノが必要で、ある時はそれを設計し、またある時は自分でそれを作ります。簡単な電子回路くらいなら、大抵は部品を買って自分で作るので良い勉強にもなります。

実験やってて一番嬉しいのはうまく動いて、新しいことが分かるようなデータに出会ったとき。でもそこに至るまでのああでもない,こうでもない,やっぱ違った!というような浮き沈みのある日々を、先輩や後輩と過ごすのもまた楽しいです。やっているうちにモノに詳しくなると、さらに充実感アップ。

そんな日々の後に思い通りに動く瞬間が来ると,白熱したスポーツの試合に勝利したときのような、そんな気分になります。

 


夕方の研究室


授業が終わって研究室に帰って一息ついていると,

「Otsukaresama-desu!」

と少し片言のあいさつが聞こえてきました。研究室の留学生です。まだ作業をするつもりの僕らは,覚えたて感満載のその声に癒されながら「お疲れーっす」と手を振って作業を続けます.

スタイル:欧米との違い

大学院に1年いて,だんだんと欧米人のライフスタイルがわかってきました.

彼らは普段夕方5時くらいには研究室を後にします。これが彼らの「普通」。母国では夕方に仕事を切り上げ,夜は家族や友人と過ごすのが通常のスタイルだそうです。その代わり朝は8:30までには仕事を開始し、日中はバリバリやります。自分のペースをしっかりキープする姿はとても参考になります。

一方で日本人やアジア系の人たちは夜遅くまで残っていることが多いです。晩ご飯の時間になるとみんなでコンビニや定食屋に行くかして、研究室に戻り1日のラストスパートに入ります。

ごく稀に日本に適応しすぎた欧米人もいて,そんな人はアジア系の帰宅時間の遅い生活を送っています。そんなところまで染みつかなくてもいいのに。

 

一つエピソードを。ある日帰り際にドイツの学生が

”Every day, are you working hard or hardly working???(笑) See you! ”(『いつもいつもよく働いてるね!それとも実はサボってるのだけなのかな??』)

って言い残して帰った事があります。それもまた良い笑顔で言うからこっちも笑うしかなかった。彼らからすれば朝早く来て夕方には帰るのが当たり前。いつも夜まで居残る日本人信じられない!という事でしょう。

ユーモアたっぷりの言葉がすっと出てくるのも彼らの特徴です.

僕なんかは,あとちょっとやったら帰ろうと考えても思ったより時間がかかってしまう方です.アメリカ人なら残りは明日ね!と帰るところかもしれません。

素晴らしいなあ、参考にしよう、と思いながらマウスをカチカチする音が夜の研究室に響きます。

 


 

僕の生活は大体このようなものから成っています。

良くも悪くも生活と研究室は一体のため,授業より研究室周りの事が多いのがshevaとの違いでしょうか。僕は機械と格闘していますが,細胞と向き合う人,大自然の中で動物を追い続ける人,それぞれ軸となるスタイルがあります。僕もまだ自分の軸を模索する日々です。

 

個人的には,ぶっ倒れさえしなければ働き性なのは日本人・アジア人の素晴らしき特徴で良いんじゃないすかね (苦しい!笑)

きっと明日も,明後日も,僕はドイツ人留学生を「また明日!」と言って見送るに違いありません。

 

hama

*1  http://ssl.tksc.jaxa.jp/pairg/spf/chamber_large.htm

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