はじめまして。大地です。
現在東京大学の大学院で、物理工学を専攻しています。
僕が物理を志したのは、単に目に見える世の中の全てを理解したい!そんなシンプルな好奇心によるものでした。
今後の記事では、【物理の視点から見る日常・最新科学】を主なテーマとして取り扱っていきたいと思います。
今回は初めての記事ということで、僕が中学の時から長い間不思議に思っていた炎の物理に迫りたいと思います!
我々が日常的に目にする炎。いったいなんなんでしょうか?
昔、アメリカの中学校で物質の三相(固体、液体、気体)について勉強していたとき、理科の先生に質問したことがありました。
“Ms.○○, what is fire?”
すると
“Daichi, shut up and do your work please”
当時は授業を中断することに生きがいを見出していたガキだったこともあり、かるーくあしらわれてしまいました。
それくらい答えてくれたっていいじゃん!!と腹が立ちましたが、実はこの問題、意外と難しいんです。
今では、ははーんあの先生知らなかったんだなー、と余裕を持って言えますが、みなさんはいかがでしょうか?
物質の状態
日本の教育では、小中学生の頃、全ての物質は固体、液体、気体の3つの状態に分けられる。と学びます。
すると僕みたいな卑屈な少年は、いやいやいや、例外なんかあるでしょ、と必死に探すわけです。
例えば、太陽は?マグマは?炎は?
こういった質問をすると先生に嫌われるわけです。
ただ、このような質問はとても根本的で、重要な問いかけです。
結論から言うと、一般的に物質は固体、液体、気体以外にも様々な状態を取ることが知られています。(詳しくは物質の状態を参照)
気持ちが分からないでもないですが、学校教育がミスリーディングなわけです。
これを頭に入れておいていただいたうえで、炎の正体に迫りたいと思います。
ろうそくを”燃やす”
ここからは、燃えるという現象を解説していきたいと思います。
A)当然ですが、ろうそくは突然燃え出したりはしません。燃え始めるためには、炎を最初に近付けてあげる必要があります。
B)炎が近付くと、ろうそくを構成している炭素鎖(炭素Cと水素Hで主に構成されています)が加熱され、一部気体になります。1000℃と馬鹿みたいに熱いので、ただ気体になるだけではなく、ものすごいエネルギーを持って原子たちがそこらを飛び回ります。
C)これらC,H原子たちは、もとから周りにいる酸素原子と衝突して、酸化されます。
D)ろうがある限り、C,H原子はろうから供給されるので、なくなることはなく、息を吹きかけて炎を消すまでろうそくは燃え続けます。
燃えるというメカニズムをシンプルに解説してみました。次は、どう光と繋がるか解説したいと思います。
ろうそくの炎と光
ろうそくが光を発するのは
C)これらC,H原子たちは、もとから周りにいる酸素原子と衝突して、酸化されます。
のタイミングです。ただそのメカニズムは二段階に分かれており、少し複雑です。
Part1 化学発光
これはかなり直観的です。C、H原子が酸化されると、酸化された後の方がエネルギー的に安定なので、余分なエネルギーが青い光として放出されます。
これがろうそくの根元の青い光の原因です。
Part2 黒体輻射(こくたいふくしゃ)
ここがやや複雑なパートです。
気体になったC、H原子たちは全てが酸化し、青い光を発する訳ではありません。
基本的に酸素の供給量が足りないので、炭素Cの一部は酸化されずに、真っ黒な”すす”の状態のまま、空気の流れに沿って上昇していきます。
しかし、なんといっても周りは1000℃である。熱い。1000℃に加熱され”すす”はどうなるのでしょうか?
鍛冶屋の鉄の塊を想像してほしいと思います。
鉄の塊は普通は銀色なのに、火の中に放り込むと赤く発光するようになります。
この現象は黒体輻射と呼ばれていて、鉄に限った現象ではありません。
どんなもの(黒いもの)でも、高温で熱すれば光るという現象です。これは熱によってエネルギーが高い状態にある原子が、もとの状態に戻るときに光を発しているという現象です。
”すす”にも当然同じことがいえ、1000℃程度に熱せられた”すす”は黄色オレンジ色っぽい色になります。
以上をまとめると、
炎の根元の青色は化学発光
その周りの明るい色は黒体輻射
による光です。
付け加えておくと、最近のライターとかは、上手く酸素を取り込み、”すす”を出さない工夫をしているため、青色のみの発光をしている場合が多いです。
炎の”状態”
では最後に改めて、炎とはなんなんでしょうか?
自信を持って気体だ!と答えられた方、申し訳ありません。
実は、良く分かっていないというのが現状です。プラズマなのではないか、という説もあります。
最後に、炎の状態について述べさせていただきたいと思います。
炎がプラズマであるという説について考察したいと思います。
先ず、プラズマというのは気体、液体、固体に次ぐ、第四の状態と呼ばれております。
気体に更にエネルギーを加えることで、原子を電子と陽イオンにバラバラにした状態です。
では、炎がプラズマかどうか、どのように検証したらよいのでしょうか?
Part1 影
一つ目の理由は炎に影があることです。また、それだけでなく、炎が一部光を散乱することです。
これは気体にはない現象で、プラズマ状態の電子によって説明ができます。
単体になった電子に光が衝突すると、電子が光を吸収したり、散乱したりします。もしチャンスがあれば、一度観測してみてください。
Part2 電気伝導
あまり知られていませんが、炎が電離している現象は直接観測されています。
電離していれば、原子でなく、プラズマ状態でいることが分かるので、有力な証拠となります。
その実験を行っている動画を紹介したいと思います。かっこいいのでぜひ見て頂きたいと思います。
実験では、電極に20,000ボルトをかけ、間に炎を置きます。
すると、見事に炎が蝶の羽のように真っ二つに電極方向に分かれます。
これは
①炎の電気伝導度が空気よりも大きい
②電荷が電極方向に引っ張られているので、+と-イオンが生成されている
ことを示唆しています。
結論
ここまで、炎が電離している証拠となる現象を見てきました。
じゃあ炎はプラズマだ!と思うかもしれませんが、炎がプラズマの定義を満たすかどうかは微妙なんだそうです。
確かに電離はしてそうなのですが、こんなにエネルギースケールが小さい物質を本当にプラズマと呼んでよいのか良く分かっていない、とざっくり理解して頂けると良いのではないでしょうか。(プラズマの定義に関しては:プラズマ物理 )
以上、僕の子供の頃からの疑問を説明してみました。
それにしても、こんなに毎日目にする現象にも関わらず、意外と良く分かっていないものなのですね。
最後に、炎とは何か?の問いを簡単に動画で説明してくれている、英語のビデオがあったので、紹介させて頂きます。
分からないことがあったら、コメント欄までお願いします!
大地
出典;
http://www.aeru-shop.jp/fs/aeru/c/komenuka-warosoku
http://kou.benesse.co.jp/nigate/science/a13p07bb01.html
http://www.naro.affrc.go.jp/flower/kiso/color_shikiso/
http://www.globe-views.com
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N2ZK4A6KLVRR01.html
http://www.ecei.tohoku.ac.jp/plasma/4state.htm
投稿者プロフィール
- 東京大学物理工学科卒業。現在ブランダイス大学にて物理(ソフトマター・生物物理)を専攻中。Ph.D.1年目。好きな筋トレはトライセプスエクステンション。好きなビールはIPA。
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炎はプラズマかもしれないが、現状プラズマの定義に合致するかは怪しい、ということはわかりました。
逆に、「プラズマは炎か」というのが気になります。
博物館に行けばガラスの中のプラズマを見ることができますが、見た目は炎っぽくありません。
とりあえず炎がプラズマだと仮定すると、プラズマ=炎なのでしょうか、それともあくまで炎の上位概念なのでしょうか。
コメント有難うございます!
結論から言うと「プラズマは炎」というのは間違っています。上位概念です。
仮に、炎がプラズマの定義に含まれているとしても、プラズマの内の一つの形態でしかありません。
プラズマとは、本文でも述べたとおり、原子の+と-が電離した状態です。
このような状態は炎でなくとも、雷、ネオンサインなど様々な形で存在します。雷、ネオンサインは熱(元をただせば化学)エネルギーをもとに電離状態を作り出す炎とは異なり、電気的なエネルギーでプラズマを生成しています。
よって、炎は(仮にプラズマであったとして)プラズマの一つの側面でしかありません。つまり「プラズマは炎」ではないのです。
ややこしくなってすいませんが、もし分からないことがあればまた是非質問してください!
論文まだー?
ちば
はい、すぐ書きます、おそくなってすいません汗汗